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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)26号 判決 1998年4月14日

オランダ国

5621 ベーアー アインドーフェン フルーネヴァウツウェッハ 1

原告

フィリップス エレクトロニクスネムローゼ フェンノートシャップ

(審決表示の名称

エヌ ベー フィリップスフルーイランペンファブリケン)

同代表者

ヤン ジー エー ロルフェス

同訴訟代理人弁理士

沢田雅男

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

梅澤俊

松田昭重

吉村宅衛

小池隆

主文

特許庁が平成6年審判第4545号事件について平成7年8月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告(旧名称 エヌ ベー フィリップス フルーイランペンファブリケン)は、名称を「移動無線局用制御チャネル選択方法及び装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、1982年12月17日にアメリカ合衆国においてした出願に基づく優先権を主張して、昭和58年12月16日に特許出願(昭和58年特許願第236508号)したが、平成5年11月25日に拒絶査定を受けたので、平成6年3月18日に審判を請求し、平成6年審判第4545号事件として審理された結果、平成7年8月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年11月1日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

各無線ゾーンにそれぞれ1つづつ位置する基地無線局を複数有する無線通信方式の任意の無線ゾーンにおける移動無線局(MS)にて制御チャネルを選択する方法であって、移動無線局(MS)といずれかの基地無線局との間の通信が、各基地無線局に割当てられる少なくとも1つの制御チャネルを含む複数の通信チャネルの内のいずれかを介して行われ;各基地無線局(BS)が自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ可変の時間間隔で送信し;このような各リファレンス(RF)の内容を、少なくともそれにょって識別される制御チャネル(CCH)のチャネル番号(cnr)とし、;移動無線局(MS)が前記各リファレンスのリストを作製し、現在使用している制御チャネル(CCH)の品質が予定した品質レベル以下となる場合に、移動無線局(MS)が前記リストに基づいて他の制御チャネルの走査動作を開始し、;移動無線局が前記リストから最良有効制御チャネルの選択を試みることを特徴とする移動無線局用制御チャネル選択方法。

3  審決の理由

別添審決書写し記載のとおりである。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由のうち、本願発明と引用例のものとが、「各基地無線局(BS)が自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割当てられいる制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ送信し」の点で一致するとした認定、相違点<1>の判断のうちの「引用例のものにおいても周知事項を採用して本願発明のようにすることに格別の思考力を要するものとは認められない。」とした点、及び、「本願発明は、引用例に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受ける事が出来ない。」とした点は争い、その余は認める。

審決は、一致点の認定及び相違点<1>の判断を誤って、本願発明の進歩性についての判断を誤ったものである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は、「各基地無線局(BS)が自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ送信し」(審決書8頁5行ないし10行)の点で一致すると認定しているが、誤りである。

本願発明においては、各基地無線局(BS)は自局(BS)に割当てられた各制御チャネルにて他の複数の基地無線局に割当てられている制御チャネル(CCH)を識別する他局リファレンス(RF)を送信するのに対し、引用例発明においては、各基地無線局は無線制御局により総括されるすべての基地無線局に共通な着信信号専用制御チャネルにて自局を含むこれら全基地無線局に割当てられたすべての発信信号専用制御チャネル(着信信号専用チャネルとは異なる)を識別するリファレンスを送信する。

すなわち、引用例発明において各基地無線局がリファレンスの送信に用いる制御チャネルは、全基地無線局に共通な同一の制御チャネルであるのに対し、本願発明のそれは、各基地無線局に割当てられた個別の制御チャネルである。したがって、各基地無線局がリファレンスの送信に用いる制御チャネルの点で相違する。また、本願発明の場合、各基地無線局が送信するリファレンスは基地無線局毎にその内容が異なるのに対し、引用例発明の場合のそれは、すべての基地無線局でその内容が同一である。したがって、本願発明と引用例発明は、各基地無線局が送信するリファレンスの点で相違する。

(2)  相違点についての判断の誤り(取消事由2)

審決は、「移動無線局が現在使用している制御チャネルの品質が予定したレベル以下になった場合他の制御チャネルを選択することは周知事項であるから、引用例のものにおいても周知事項を採用して本願発明のようにすることに格別の推考力を要するものとは認められない」(審決書9頁9行ないし14行)と判断しているが、引用例発明に周知事項を採用するということが技術的にはあり得ないことを看過するものあって、誤りである。

引用例発明においては、どの基地無線局においても使用される着信信号専用制御チャネルは全く同一であるので、移動無線局が、現在の着信信号専用制御チャネルに代えてわざわざ他の着信信号専用制御チャネルを選択するということはあり得ない。一方、発信信号専用制御チャネルについては、通話チャネルが一旦選択されてしまえば不必要になるから、引用例発明の通信方式の場合、他の発信信号専用制御チャネルを選択する必要性は全く発生しない。すなわち、着信信号専用制御チャネルにおいても発信信号専用制御チャネルにおいても、他のチャネルを選択することはあり得ないのであるから、引用例発明においては、現在使用中の制御チャネルに代えて、「他の制御チャネルを選択する」ということは起こり得ないのである。

したがって、引用例発明の通信方式では、「制御チャネルの品質が予定レベル以下になった場合に他の制御チャネルを選択する」ことは起こり得ないから、「移動無線局が現在使用している制御チャネルの品質が予定したレベル以下になった場合他の制御チャネルを選択すること」が周知事項である(この点は認める。)としても、他の制御チャネルを選択することがあり得ない通信方式の引用例発明に採用することができないことは明らかである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> 本願発明において、「現在使用中の制御チャネルの品質が劣化した場合は他局に割当てられた制御チャネルに切り替えられる」ということは、自局の制御チャネルと他局に割当てられた制御チャネルが同じ場合もあるということである。

したがって、本願発明は、制御チャネルの割当てが各基地局に「個別」にあるもののみに限定されていないことは明らかであるから、引用例発明のような他局リファレンスを含む全局のリファレンスの送信に用いる制御チャネルが、「各基地無線局に割当てられた共通の制御チャネルである」ものを排除するものではなく、審決においてこの点を本願発明と引用例発明との一致点として認定したことに誤りはない。

仮に、本願の特許請求の範囲に記載されたリファレンスの送信に用いる制御チャネルが、「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」もののみに限定して解釈されるとしても、リファレンスの送信に用いる制御チャネルを、「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」ものとすることは、乙第1号証、第2号証に示されるように本願出願当時に周知の事項である。そして、引用例発明の記載内容を解釈するに当たって、その技術水準を参酌すると、引用例には実質的に「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」ものが記載されているといえるから、この点においても審決の結論に影響を与えるものではない。

<2> 引用例には、移動無線局の動作に関して、「98は記憶部で、すべての移動局発信信号制御チャネルの番号(・・・)を格納してある。なおこれらの番号はシステム情報として移動局着信信号制御部46(「47」は誤記)から無線送信機を通して送られ、アンテナ91から受信部93を経て制御部94において記憶部97に格納される。」(甲第3号証4頁左下欄1行ないし8行)と記載されているから、自局を含むこれら全基地無線局に割当られたすべての発信信号専用制御チャネルを識別するリファレンスを送信することは、少なくとも「他の複数の基地無線局に割当られている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)」についても送信していることになるから、審決において、この点を一致点として認定したことに誤りはない。

(2)  取消事由2について

引用例には、「少なくとも1つの移動局発信信号専用制御チャネルを少なくとも相隣る無線ゾーンでは互いに異なった無線周波数を割当てて設定して成り、前記移動局に、前記設定されている移動局発信信号専用制御チャネルの送信波を順次受信し受信電界強度を比較して該移動局の発信信号を送出すべき移動局発信信号専用制御チャネルとして選択する手段を設けて成る」(甲第3号証2頁右下欄14行ないし3頁左上欄1行)ことが記載されている。これは、移動局発信信号専用制御チャネルを使用しているときにこの制御チャネルが使用できなくなる場合、例えば受信電界強度の低下等により現在使用されている制御チャネル(CCH)の品質が予定した品質レベル以下となる場合等には、使用中の制御チャネルを変更しているものである。そして、引用例発明の制御チャネルは、これが使用できなくなると、その制御チャネルは変更する必要が生じるので他の制御チャネルを選択することになる。

したがって、相違点<1>の判断に誤りはない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由)は、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由のうち、引用例に審決摘示の各事項が記載されていること、相違点<1>、<2>の認定、及び、相違点<2>の判断については、当事者間に争いがない。

2  取消事由1について

(1)  本願発明と引用例発明とは、「各基地無線局(BS)が自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ送信し」の点を除くその余の構成が一致していることは、当事者間に争いがない。

(2)<1>  引用例には、「移動通信システムにおいて、システム情報又は移動局着信信号は着信回線接続信号送信部46aから無線送(受)信機50および60から同時に送信されて全移動局で受信され」(甲第3号証4頁左下欄9行ないし13行)と記載されており、引用例発明においては、システム情報(リファレンス)は、「着信回線接続信号送信部46a」すなわち「移動局着信信号専用制御チャネル」から同時に送信されるものと認められる。また、引用例には、「全無線ゾーン共通の無線周波数を割り当てた単一の移動局着信信号専用制御チャネルを設けて移動局に対する通話チャネルの設定を可能ならしむるようにした」(同1頁左下欄9行ないし12行)と記載されており、引用例発明においては、システム情報(リファレンス)を送信する「移動局着信信号専用制御チャネル」は、「全無線ゾーン共通の無線周波数を割り当てた単一」の「チャネル」であると認められる。

したがって、引用例発明は、全基地無線局に共通のチャネルにてリファレンスを送信するものであって、自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにてリファレンスを送信するものではないものと認められる。

<2>  被告は、本願発明において、自局の制御チャネルと他局に割当てられた制御チャネルが同じ場合もあり、制御チャネルの割当てが各基地無線局に「個別」であるもののみに限定されていないことは明らかであるから、引用例発明のような他局リファレンスを含む全局のリファレンスの送信に用いる制御チャネルが、「各基地無線局に割当てられた共通な制御チャネルである」ものを排除するものではない旨主張している。

しかしながら、上記認定のとおり、引用例発明においてリファレンスを送信する移動局着信信号専用制御チャネルは、「全無線ゾーン共通の無線周波数を割り当てた単一」の「チャネル」であって、本願発明におけるような「自局の制御チャネル」とか「他局に割り当てられた制御チャネル」という概念が存在しないものである。本願発明においては、その要旨から明らかなとおり、自局に割当てられる制御チャネルと他局に割当てられる制御チャネルとが明確に区別されており、自局に割当てられた制御チャネルは他局リファレンスを送信する必要があり、また、現在使用している制御チャネルの品質が劣化した場合は他局に割当てられた制御チャネルに切り替えられるものであることからしても、本願発明においてリファレンスの送信に用いられる制御チャネルが、「各基地無線局に割当てられた共通な制御チャネル」を排除していることは明らかであって、被告の上記主張は採用できない。

また、被告は、本願の特許請求の範囲に記載されたリファレンスの送信に用いる制御チャネルが、「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」もののみに限定して解釈されるとしても、上記事項は、乙第1号証、第2号証に示されるように、本願出願当時周知の事項であり、引用例の記載内容を解釈するに当たって、その技術水準を参酌すると、引用例には実質的に「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」ものが記載されている旨主張している。

しかしながら、上記説示のとおり、引用例発明には、本願発明のような「自局の制御チャネル」とか「他局に割り当てられた制御チャネル」という概念が存在しないし、乙第1号証、第2号証に記載された発呼信号及び着呼信号を送受する制御チャネルが、制御チャネルという点で引用例発明のものと共通しているとしても、そのことから、引用例には実質的に「各基地無線局に割当てられた「個別」の制御チャネルである」ものが記載されているとは認め難く、上記主張は採用できない。

(3)<1>  引用例には、「98は記憶部で、すべての移動局発信信号専用制御チャネルの番号(・・・)を格納してある。なおこれらの番号はシステム情報として移動局着信信号制御46(「47」は誤記)から無線送信機を通して送られ、アンテナ91から受信部93を経て制御部94において記憶部97に格納される。」(甲第3号証4頁左下欄1行ないし8行)と記載されており、引用例発明における「すべての移動局発信信号専用制御チャネルの番号」は「システム情報」であって、本願発明における「他の複数の基地局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別」する「他局リファレンス」に対応するものと認められるが、前者は「すべての移動局発信信号専用制御チャネルの番号」であるのに対し、後者は「他の複数の基地局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別」するものであるから、引用例発明における「システム情報」は「他局リファレンス」とは相違するものと認められる。

<2>  被告は、引用例に上記記載があることから、少なくとも「他の複数の基地局に割当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)」についても送信していることになる旨主張するが、引用例発明におけるリファレンスは、いずれの基地無線局においても同一内容の情報であって、本願発明におけるように基地無線局毎に相違する情報とはならないから、上記主張は採用できない。

(4)  上記(2)、(3)によれば、本願発明と引用例発明とは、「各基地無線局(BS)が自局(BS)に割当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割当てられている制御チャネル(CCH)とそれぞれ送信し」の点で一致する、とした審決の認定は誤りであるというべきであり、取消事由1は理由がある。

3  取消事由2について

(1)  移動無線局が現在使用している制御チャネルの品質が予定していたレベル以下になった場合他の制御チャネルを選択することが周知事項であることは、当事者間に争いがない。

(2)  引用例には、「全無線ゾーン共通の無線周波数を割り当てた単一の移動局着信信号専用制御チャネルを設けて移動局に対する通話チャネルの設定を可能ならしむるようにした」(甲第3号証1頁左下欄9行ないし12行)と記載されており、引用例発明においては、どの基地無線局においても使用される着信信号専用制御チャネルは同一であるので、移動無線局が、現在使用中の着信信号専用制御チャネルに代えて、他の着信信号専用制御チャネルを選択することはないものと認められる。

また、引用例には、「少なくとも1つの移動局発信信号専用制御チャネルを少なくとも相隣る無線ゾーンでは互いに異なった無線周波数を割当てて設定して成り、前記移動局に、前記設定されている移動局発信信号専用制御チャネルの送信波を順次受信し受信電界強度を比較して該移動局の発信信号を送出すべき移動局発信信号専用制御チャネルとして選択する」(甲第3号証2頁右下欄14行ないし末行)、「移動局は選択したその無線ゾーンの移動局発信信号専用制御チャネルで発信信号を送出する。送出された信号は無線(送)受信機61を経て回線接続信号受信機81で受信される。これによりこの無線ゾーン(Ⅱ)の空チャネルから適当な回線を選び、発信信号を送出した移動局に無線(送)受信機61を経て通話チャネル番号を指定する。指定された番号を受けた該当移動局はその番号のチャネルにより通話を開始する。」(同5頁左上欄3行ないし12行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、引用例発明において、発信信号専用制御チャネルは、通話チャネルが一旦選択されてしまえば不必要になり、他の発信信号専用制御チャネルを選択する必要は発生しないものと認められる。

上記のとおり、引用例発明においては、現在使用中の制御チャネルに代えて、「他の制御チャネルを選択する」ということはなく、制御チャネルは切り替えないことを前提とした通信方式であって、「制御チャネルの品質が予定したレベル以下になった場合に他の制御チャネルを選択すること」を予定していないものと認められるから、移動無線局が現在使用している制御チャネルの品質が予定したレベル以下になった場合に他の制御チャネルを選択することが周知事項であるからといって、他のの制御チャネルを選択することがあり得ない通信方式である引用例発明に上記周知事項を採用することはできないものというべきである。

したがって、審決が、相違点<1>について、「引用例のものにおいても周知事項を採用して本願発明のようにすることに格別の推考力を要するものとは認められない。」(審決書9頁12行ないし14行)とした判断は誤りである。

(3)  被告は、引用例(甲第3号証)の2頁右下欄14行ないし3頁左上欄1行の記載を根拠として、移動局発信信号専用制御チャネルを使用しているときにこの制御チャネルが使用できなくなる場合、例えば受信電界強度の低下等により現在使用されている制御チャネル(CCH)の品質が予定した品質レベル以下となる場合等には、使用中の制御チャネルを変更しているものであり、引用例発明の制御チャネルは、これが使用できなくなると、その制御チャネルは変更する必要が生じるので他の制御チャネルを選択することになる旨主張する。

しかしながら、引用例の上記個所に記載された内容は、移動局の発信(発呼)時において該移動局が発信信号を送出すべき制御チャネルを選択するために(すなわち、発信信号専用制御チャネルを選択するために)、全発信信号専用制御チャネルを走査し、最良の制御チャネルを上記発信信号を送出すべき制御チャネルとして選択する手段を述べたものと解され、既に選択されている制御チャネルを周波数の異なる他の制御チャネルに変更することを述べたものではないものと認められる。また、引用例発明における発信信号専用制御チャネルの使用は、発呼の際において通話チャネルが指定されるまでの極めて短時間であると考えられ、引用例発明において、このような短期間で上記制御チャネルが品質レベルの低下により使用できなくなるような場合を想定しているとは考えられず、移動局発信信号専用制御チャネルを「発呼に使用しているとき」に周波数の異なる他の制御チャネルに変更されることはないものと解される。

したがって、被告の上記主張は採用できない。

(4)  以上のとおりであって、相違点<1>についての審決の判断は誤りであり、取消事由2は理由がある。

4  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成6年審判第4545号

審決

オランダ国 5621 ベーアー アインドーフェン フルーネヴァウツウェッハ 1

請求人 エヌ ベー フィリッブス フルーイランペンファブリケン

東京都千代田区霞が関3-2-4 霞山ヒル7階

代理人弁理士 杉村暁秀

東京都千代田区霞が関3-2-4 霞山ヒル7階

代理人弁理士 杉村興作

昭和58年特許願第236508号「移動無線局用制御チャネル選択方法及び装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和59年 8月10日出願公開、特開昭59-139736)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

本願は、昭和58年12月16日の出願(優先権主張日1982年12月17日、米国)であつて、その発明の要旨は、平成4年8月18日、同5年7月19日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりものと認める。

「各無線ゾーンにそれぞれ1つづつ位置する基地無線局を複数有する無線通信方式の任意の無線ゾーンのおける移動無線局(MS)にて制御チヤンネルを選択する方法であって、移動無線局(MS)といずれかの基地無線局との間の通信が、各基地無線局に割り当てられる少なくとも1つの制御チャネルを含む複数の通信チャネルの内のいずれかを介して行われ;各基地無線局(BS)が自局(BS)に割り当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基地無線局に割り当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ可変の時間間隔で送信し;このような各リファレンス(RF)の内容を、少なくともそれによって識別される制御チャンネル(CCH)のチャネル番号(cnr)とし;移動無線局(MS)が前記各リファレンスのリストを作成し、現在使用している制御チャネル(CCH)の品質が予定した品質レペル以下となる場合に、移動無線局(MS)が前記リストに墓づいて他の制御チャネルの操作動作を開始し;移動無線局が前記リストから最良有効制御チャネルの選択を試みることを特徴とする移動無線局用制御チャネル選択方法。」

これに対して、原査定の拒絶理由に引用された本願の優先権主張日前である昭和56年10月3日に頒布された特開昭56-126339号公報(以下、引用例という。)には、無線ゾーンの構成に関して、「第1図は・・・・・。はじめにこの構成を大まかに区分けすると、1と2は無線ゾーン(Ⅰ)および(Ⅱ)にそれぞれは配設された基地局、3と4は移動局、5は基地局を総括する無線制御局をそれぞれあらわしている。(公報第3頁右上欄第12行~第19行)、「第2図は、・・・・・、参照数字は第1図のものにおのおの40を加えてあらわしている。この方式が第1図のものと異な。のは、発信制御部47と48が送信器51と送信器61にそれぞれ対応して接続しており、」(公報第4頁左上欄第18行~右上欄第7行)、基地局と移動局間の制御チャンネルの送受信号に関して、「上記第2図および第3図のような構成を持つ移動無線システムにおいて、システム情報亦は移動局着信号信号は着信回線接続信号送信部46aから無線送(受)信機50および60から同時に送信されて全移動局で受信され、アンテナ91、送受共用機92を通ってきた無線信号は受信部で復調され制御部で復号される。」(公報第4頁左下欄第9行~第15行)、「送出された信号がシステム情報として移動局発信信号専用制御チャンネルの番号を含んでいるときは、制御部94で復合された番号により記憶部の内容を更新する。」(公報第4頁右下欄第8行~第11行)、「第4図において、・・・・・、基地局1においてはチャンネル51は・・・・・移動局発信信号専用チャンネルとなり、・・・・・。同様に基地局2においてはチャンネル62が移動局発信信号専用制御チャンネルとなり、・・・・・。そしてこれら2つの移動局発信信号専用チャンネルの番号は着信回線接続信号送出部106aから全ゾーンに対して常時放送されてる。そしてすべての移動局はこの放送を受信して記憶部97に格納している記憶を更新している。・・・・・。しかしいま基地局1においてすべての通話チャンネルが話中であるときに次の発呼があったとする。このときは今まで移動局発信信号専用チャンネルとして用いていたCH51を通話チャンネルとして用いることとし、その旨移動局に指定すると共に回線接続切替えスイッチ101によりCH51を音声切り替えスイッチ71に接続し、同時に移動局発信信号専用制御チャンネルが無くなったことを着信制御部106の放送の中に加えて全移動局に伝える。したがってそのあと移動局がスキャンして検知する移動局発信信号制御チャンネルの中には含まれなくなる。そして若干時間してチャンネル51がまだ話中にチャネルCH52~55のうちいずれかが空いたら、回線接続スイッチ101を制御してその空いたチャンネルたとえばCH52を新しい移動局発信信号制御チャンネルとして選択し、同時にその番号を着信制御部106の放送の中に加える。」(公報第5頁左下欄第6行~第6行左上欄第2行)、移動無線局の動作に関しては、「第3図は移動局の持つ電気回路の構成の一例を示したプロック図である。図において、91はアンテナ、92は送受共用器、93は受信部、94は変調復号機能および信号の電解強度の比較を行う機能を持つ制御部、96はシンセサイザ、97は送信部、98は記憶部で、すべての移動局発信信号制御チャンネルの番号・・・・・を格納してある。なお、これらの番号はシステム情報として移動局着信信号制御部46から無線送信器を通して送られ、アンテナ91から受信部93を経て制御94において記憶部97に格納される。99は送受話器である。」(公報第4頁右下覧第16行~左下覧第8行)、「次に移動局発信信号を送出する場合には、記憶部98に格納されている移動局発信信号送出チャンネル番号を制御部94にいり読みだし、無線周波数指定部95を用いて周波数シンセサイザ部96に順次チャンネルを指定し無線基地局1の移動局発信信号送出チャンネルの送信波(無線送(受信器51の送信出力)と無線基地局2の移動局発信信号送出チャンネルの送信波(無線送(受)信機61の送信出力)の両方を順次受信して各々の受信入力電界を比較し、より電界の強い無線基地局・・・・・。移動局は選択したその無線ゾーンの移動局発信信号専用制御チャンネルで発信信号を送出する。」(公報第4頁右下覧第12行~公報第5頁左上覧第5行)、との記載がある。

そこて本願発明と引用例のものとを比較してみると、両者は、各無線ゾーンにそれぞれ1つづつ位置する基地無線局を複数有する無線通信方式の任意の無線ゾーンのおける移動無線局(MS)にて制御チヤンネルを選択する方法であって、移動無線局(MS)といずれかの基地無線局との間の通信が、各基地無線局に割り当てられる少なくとも1つの制御チャネルを含む複数の通信チヤネルの内のいずれかを介して行われ;各基地無線局(BS)が自局(BS)に割り当てられる各制御チャネルにて、他の複数の基は無線局に割り当てられている制御チャネル(CCH)をそれぞれ識別する他局リファレンス(RF)をそれぞれ送信し;このような各リファレンス(RF)の内容を、少なくともそれによって識別される制御チャンネル(CCH)のチャネル番号(cnr)とし;移動無線局(MS)が前記各リファレンスのリストを作成し、移動無線局(MS)が前記リストに基づいて制御チャネルの操作動作を開始し;移動無線局が前記リストから最良有効制御チャネルの選択を試みることを特徴とする移動無線局制御チャネル選択方法である点で一致し、<1>本願発明は、現在使用している制御チャンネルの品質が予定した品質レベル以下となる場合に、移動無線局がリファレンスリストに基づく走査動作、制御チャンネル選択をするのに対し、引用例のものは、いつそのような走査動作、選択をするものか明示されていない、<2>本願発明は、基地無線局が他局リファレンスを可変の時間間隔で送信するのに対し、引用例のものは、基地無線局が常時送信する点で、相違する。

前記相違点について検討すると、まづ<1>に付いて、移動無線局が現在使用している制御チャンネルの品質が予定したレベル以下になった場合他の制御チャンネルを選択することは周知事項あるから、引用例のものにおいても周知事項を採用して本願発明のようにすることに格別の推考力を要するものとは認められない。次に<2>に付いて、引用例のもののように常時送信するに替えて本願発明におけるように可変の時間間隔で送信するようにすることは、無線チャンネルの間隔等の無線ゾーンゾーンの構成を考慮すれば適宜実施し得ることと認められる。

したがつて、本願発明は、引用例に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受ける事が出来ない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年8月24日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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